立花月夜の脳みそ

現実と幻想のあいだで、思考を遊ばせる場所。

「どこまで近づいていいのかわからない」発達障害の私と娘が抱える、人との距離感

 

 私はADHDです。

「発達障害です」と言うと、人と話すことが苦手だと思われることがあります。

 でも、実はそうではありません。

 初対面の人とは普通に話せます。

 仕事の打ち合わせや、話す内容が決まっている場面も平気です。

 

 むしろ、セミナーで講師をするような仕事は嫌いではありません。

 

 人前で話すこと自体は、あまり緊張しないのです。

 困るのは、その次。二回目に会ったときです。

 何を話せばいいのかわからない。

 どこまで相手の懐に入っていいのかわからない。

 

 昨日まで敬語だった相手に、今日は少しくだけていいのか。

 冗談を言っていいのか。連絡はどのくらいの頻度なら迷惑じゃないのか。

 そんなことばかり考えてしまいます。

 相手は何も気にしていないのに、私は頭の中で距離を測り続けています。

 だから、友人を作るのは昔から苦手でした。

 できても、なぜか軽く扱われたり、大切にされなかったりすることが少なくありませんでした。

 

 私にも原因はあったのでしょう。

 人との距離がわからないから、近づきすぎたり、逆に遠すぎたり。

「ちょうどいい」が、最後までわからなかったのです。


それでも私は結婚しました。

 今思えば、それは時代に助けられた部分もあったのかもしれません。

 私が若かった頃は、今よりも恋愛が始まりやすかった気がします。

 

「まず付き合ってみよう。」

 

 そんな空気が、今よりずっと自然にありました。

 言葉で完璧に理解し合えなくても、一緒に過ごす時間の中で関係を育てていく。

 そんな恋愛が、まだ普通だった時代です。

 私は、その時代に救われた一人なのだと思います。


 娘は、私によく似ています。

 でも、私よりもっと慎重です。

 恋人を作ろうともしません。

 誰かに夢中になることもありません。

 

 ある日、娘がぽつりと言いました。

 

「嫌われたら嫌だもん。」

「自分を見せて嫌われたら嫌だし、相手にどこまで入り込んでいいのかわからない。」

 

 その言葉を聞いた瞬間、「ああ、この子も同じなんだ」と思いました。

 発達障害だから全員がそうだとは思いません。

 でも、この「距離感がわからない」という感覚は、私には痛いほど理解できます。

 相手の表情を読みすぎてしまう。空気を読みすぎてしまう。嫌われる未来ばかり想像してしまう。

 だから、一歩が踏み出せない。


 そんな娘が、23歳で結婚相談所に登録しました。

 今は入会審査の結果待ちです。

 私は「結婚相談所って、入るのにも審査があるんだ!」と驚きました。

 担当のカウンセラーさんがついて、一緒に相手を探していくそうです。

 最近は20代の利用者も増えていると聞きました。

 恋愛アプリで自力で頑張るより、「人との距離感」を一緒に考えてくれる人がいる。

 それは、娘のようなタイプには心強いのかもしれません。

 

 娘の希望条件は、24歳から30歳まで。年収500万円以上。

 私は思わず笑ってしまいました。

 

「条件、高くない?」

 そう言ったものの、夫も20代前半ではそのくらい稼いでいました。

 ……その後は転職を繰り返して、年収はなかなか伸びませんでしたけれど。

人生なんて、本当に先はわかりません。

 

 条件だけでは測れないことが、結婚にはたくさんあります。


 発達障害があると、「恋愛したい」「結婚したい」と思っていても、人との距離感が壁になることがあります。勇気がないわけではない。人が嫌いなわけでもない。

 ただ、「どう近づけばいいのかわからない」のです。

 だから私は、結婚相談所という選択肢は意外と理にかなっているのではないかと思いました。

 恋愛を一人で頑張るのではなく、伴走してくれる人がいる。

 相手との距離の取り方に迷ったとき、相談できる人がいる。

 それだけでも、心は少し軽くなる気がします。

 娘がこの先どんな人と出会うのか、私はまだ知りません。

 うまくいくかどうかもわかりません。

 

 でも、「怖いから何もしない」を選ばなかったことだけは、とても嬉しく思っています。

人生は、本当にいろいろあります。

 そして、人との距離に悩み続けてきた私たち親子も、ようやく新しい一歩を踏み出そうとしているのかもしれません。